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東京地方裁判所 平成3年(ワ)467号 判決 1992年1月08日

原告

江安商事株式会社

右代表者代表取締役

安田耕三

右訴訟代理人弁護士

増田亨

被告

有限会社共進

右代表者代表取締役

金有煥

右訴訟代理人弁護士

船尾徹

主文

一  原告と被告間の別紙物件目録記載の建物部分についての賃貸借契約における賃料は、平成二年五月一日から同年一〇月三一日までは一か月金四九万七〇〇〇円、同年一一月一日から一か月金四九万七〇〇〇円であることを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一原告と被告間の別紙物件目録記載の建物部分についての賃貸借契約における賃料は、平成二年五月一日から同年一〇月三一日までは一か月金五〇万〇六二一円、同年一一月一日から一か月金六〇万円であることを確認する。

二被告は原告に対し、金八六万三一四〇円及びこれに対する昭和六三年一二月一日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一本件は、店舗を目的とする建物賃貸借において公租公課及び物価の上昇、近隣建物賃料との比較による不相当を理由として、半年の間に二度にわたり賃料の増額請求をし、その賃料額の確認を求めるとともに、更新料を支払う旨の特約は法定更新の場合にも適用があるとして、特約に基づく更新料の支払いを請求した事案である。

二争いのない事実

1  原告は被告に対し、昭和六一年一二月三日、別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を、次のとおり賃貸する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、これを貸し渡した。

(一) 期間 昭和六一年一一月一日から昭和六三年一〇月三一日まで

(二) 賃料 一か月金四三万一五七〇円

(三) 用途 店舗(ゲーム・喫茶及び飲食店に限る)

(四) 更新料 本件契約更新の際は、被告は原告に対し、新賃料の二か月分相当の金員を支払う(法定更新の場合を含むかは争点である)。

2  本件賃貸借契約は、期間の満了した昭和六三年一一月一日以降も被告が本件建物部分を使用継続していることにより、借家法の規定により法定更新された。

3  原告は被告に対し、平成二年四月二四日ころ到達の書面で、同年五月一日から同年一〇月三一日まで本件賃料を月額金五〇万〇六二一円に増額する旨の意思表示をし、更に平成二年一〇月三〇日到達の書面で、同年一一月一日から月額金六〇万円に増額する旨の意思表示をした。

三争点

1  二つの時点における適正賃料額

2  更新料支払いの合意が法定更新に適用されるか。

第三争点に対する判断

一適正賃料額について

1  本件賃貸借契約の経緯

原告は昭和五六年一〇月二七日付けで本件建物部分のうち奥の小部屋(一二平方メートル)を除いた部分を被告代表者金有煥に賃料一か月金三三万円、保証金一五〇〇万円、期間三年で賃貸し(<書証番号略>、弁論の全趣旨)、昭和五八年五月一日付けで右奥の小部屋を賃料一か月金四万円、保証金一〇〇万円、期間一年六か月として同人に賃貸した(<書証番号略>)。そして、昭和五九年一〇月二九日付けで、右各賃貸借を一つにまとめ、原告は被告に対し、賃料一か月金三九万九六〇〇円、保証金一六〇〇万円、期間二年として賃貸し(<書証番号略>)、昭和六一年一二月三日付けで賃料を一か月金四三万一五七〇円、期間二年として合意更新した(<書証番号略>)。

昭和六三年九月ころ、被告が本件建物部分の改造工事を行ったことを巡り、原被告間で争いとなり、原告は被告に対し、同年九月二二日、被告に対し、更新拒絶による賃貸借契約終了に基づき、本件建物部分の明渡し等を求める訴訟を提起したが、原告敗訴の判決が出され、平成二年三月中旬ころ、右判決は確定した(争いのない事実)。

2  適正賃料額について

本件鑑定の結果によれば、平成二年五月一日時点における本件賃貸借契約における適正賃料額は月額金四九万七〇〇〇円(平米三八九八円)であると鑑定されているところ、その前提となる本件賃貸借の経緯については正確に認定されていること(当初契約日が代表者個人との契約の日であるが、本件賃貸借の経緯から考えると同一性があるものと考えられる)、鑑定評価方式も一般に採用されている差額配分法、利回り法、スライド法(家賃と総合の平均値)の三者を加味して検討されていること、差額配分法では借家人の寄与率が三〇パーセントとされ、通常用いられる寄与率であること、三者の試算額は金四八万八〇〇〇円、金五四万五〇〇〇円、金四七万六〇〇〇円と開差があることから、その割合配分による適正額の決定が必要となるところ、差額配分法を六、その余を各二として試算されており、本件が継続賃料であることを考えると、右割合には合理性があるものと認められること、月額金四九万七〇〇〇円とすると、増額以前の賃料が一か月金四三万一五七〇円であるから金六万五四三〇円の増加となり、金額としては大きいものの、合意後三年六月経過していることを考えると、増加率としては低く、総合すると合理的な範囲内にあることなどの事実が認められ、右鑑定金額は結論として相当性があると解することができる。

ところで、原告は平成二年一一月一日の時点でも増額請求をしているところ、原告の主張によれば、その趣旨は、その間に増額すべき事由が生じたというのではなく、右時点において最終の合意から四年が経過するのでとりあえず同年五月一日時点で暫定的に増額請求をし、その後四年の経過で正規の賃料に戻す心算であったことが窺われること(平成三年二月二五日付け第一準備書面第一の七項)、また、本件鑑定の基礎となった諸事情について検討すると、差額配分法については土地価格、建物価格、必要諸経費が基礎資料とされているが、そのうち土地価格は平成二年一月から一〇月までの取引事例を採用しており、半年以上の幅のあること、公示価格は平成二年一月から平成三年一月まで公示標準地において変動のないこと建物価格は減価償却によりかえって減少すること、必要諸経費(建物減価償却費、維持修繕費、公租公課、損害保険料、管理費)は同一年度内において更に増加することはいずれも見込まれないことから、差額配分法による試算額には変動はないものと考えられること、利回り法については公示標準地と調査標準地との合計四箇所の地価を基準として算定されているが公示標準地価格は平成二年一月から同三年一月までの間変動がなく、調査基準地価格も平成元年七月から平成二年七月の間変動なく推移しており(ちなみに平成三年度における本件調査基準地の価格にはいずれも変動がないことは当裁判所に顕著な事実である)、その変動率は平成二年一一月を基準としても同一であること、スライド法については家賃、物価総合の指数を採用しているので、月単位で見ると、半年間の増減は考えられるが、年間でみると同一であり、また、この間物価は比較的安定しており、土地価格が低落傾向を示し始めていることは当裁判所に顕著な事実であることを考えると、この間に不相当というべき変動があったと言えるかは疑問であることなどの諸事実を認めることができ、これらの諸事情を総合考慮すると、平成二年一一月一日現在においても、前記の同年五月一日時点における適正賃料額が相当である。

以上によれば、本件建物部分の適正賃料は、平成二年五月一日及び同年一一月一日のいずれの時点においても、一か月金四九万七〇〇〇円であると認められる。

二法定更新における更新料の支払義務について

1  本件賃貸借契約第二一条は「本契約更新の際は、賃借人は賃貸人に対し更新料として新賃料弐か月分相当の金員を支払うものとする」と規定しており(<書証番号略>)、文言上は合意による更新のみを指すのか法定更新も含むのか判然とせず、解釈によって判断するより他ないが、「新賃料」という表現からは、更新時には賃料の増減請求が行われ、そこで新賃料が合意されて更新することが予定されていると解するのが自然であり、通常、新賃料が定められることのない法定更新は念頭に置かれていないものと考えられる。

2 ところで、一般に更新料を支払う趣旨は、賃料の不足を補充するためであるとの考え方、期間満了時には異議を述べて更新を拒絶することができるが、更新料を支払うことにより異議を述べる権利を放棄するものであるとの考え方、あるいは実質的には同様であるが、期間を合意により更新することによりその期間は明渡しを求められない利益が得られることの対価であるとの考え方などがあり、右の賃料補充説に立てば、法定更新と合意更新とを区別すべき合理的な理由はないことになるが、そのように推定すべき経験則は認められず、かえって、適正賃料の算定に当たっては、更新料の支払いの有無は必ずしも考慮されておらず(賃貸事例比較法などにおいて実質賃料を算定する際には更新料の償却額及び運用益を考慮することはあるとしても)、また実質的に考えても、賃貸借の期間中も不相当になれば賃料の増減請求はできるのであるから、敢えて更新料により賃料の不足を補充する必要性は認められないのに対し、賃貸人は更新を拒絶することにより、いつでも期間の定めのない契約に移行させることができ、その場合は、期間の経過を待たずに、正当事由さえ具備すれば明渡しを求めることができるのであるから、賃借人においては、更新料を支払うことによりその不利益を回避する利益ないし必要性が現実に認められることなどを総合考慮すると、特段の事由がない限り、更新時に更新料を支払うというのみの合意には、法定更新の場合を含まないと解するのが相当である。

3 本件についてこれを見ると、前記のとおり、契約条項の文言からは法定更新を含むとは推認されないこと、別個に保証金が差し入れられて明渡時に償却が予定されていることから特に更新料により賃料を補充する意義は認められないこと、賃貸借期間中でも賃料の増減請求ができるとされている(<書証番号略>、第四条)ことから、これにより適正な賃料額を確保できること、法定更新の場合も含むとの慣行が存在し、かつ、その慣行を合意したと認めるべき事情のないこと、また結果論ではあるが、被告は原告に更新を拒絶され、かつ、明渡訴訟を提起されており、更新の利益を享受していないことなど諸般の事情を総合考慮すると、本件更新料支払いの合意は、賃料の補充的性格は稀薄であり、更新料支払義務の発生について法定更新の場合を含むと解すべき特段の事情があるものとは認められず、したがって、原告は被告に対し更新料の支払いを求めることはできないと解すべきである。

三結論

以上によれば、原告の賃料確認請求については、いずれの時点においても月額四九万七〇〇〇円の確認を求める限度において、理由があるから認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、また、更新料の請求については理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官大塚正之)

別紙物件目録

所在 東京都大田区蒲田四丁目一五番地一〇

家屋番号 一五番一〇の一

構造

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

種類 店舗特殊浴場居宅

床面積

一階 161.90平方メートル

二階 162.90平方メートル

三階 162.90平方メートル

四階 95.59平方メートル

のうち一階部分床面積127.5平方メートル

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